最適化される退屈な近未来

ターゲティング広告や所謂「ビッグデータ(笑)」について考えてみたりすると、いつもいつも嫌な感じの近未来に想像が行き着いてしまう。

ちょっと前まで、近未来の屋外広告はそこに通りかかった人向けにその人に最適化された広告が語りかけてくるようになる、というものがあった。今となっては「(笑)」を付けざるを得ない感があるが、公共の場で自分の変態趣味を晒されるという誠に素晴らしい未来像であった。

或いは通販サイトでおなじみの、自分が最近検索したり購入した商品に基づいた「こちらの商品はいかがでしょう」というリスト。忘年会のためにレイザーラモンHG風の衣装を買った後の、年も明けて心機一転頑張ろうと思っているところに表示されるムチや低温ろうそく、それをみてどんよりとする自分(蛇足だが、この日記を書くために「低温ろうそく」をググったので、このググった履歴を後で消しておかないとまたどんよりするに違いない)。大体、買い物が終わった後に関連商品出すのってどういう意味があるんだ。カメラ買った後で「こっちのカメラのほうがお買い得でしたねウフフ」と人を馬鹿にするための機能。わぁ便利。

これらも問題だが、これから来るであろう善意が人生をつまらなくする問題についても考える必要がある。

野村は一般的おっさんのカテゴリに属するので「ラーメン」が好きである。従って新しい駅に降りてランチを探す際にはキーワードとして「ラーメン」を良く使う。後は「ハンバーガー」辺りか。昭和末期の男の子はファストフードがとても好きなのだ。

だから、ビッグデータはこんな野村に対しておっさんの趣味嗜好に合わせて最適化された情報を提供してくれる。ラーメンといっても多種多様だが、きっと好みの味、値段帯、お店の広さ、トイレの清潔さ、店主の頑固度までを加味して最適化された情報を提供してくれるだろう。それは、とても気持ちのいいことだろう。

つまり、どこにいても何をしても、「オマエはコレが好きだろう」といって情報を取捨選択して提供してくれる。リストの上から順に選べば良いのだ。それがミンナが望んだ近未来だ。

なんと驚きのない未来だ。

例えば、ラーメンが好きな野村に対して、少しひねって回転寿司、或いは今日は意外にもフレンチのOLに人気のコースを提案してくれるシステムはどうやったら作ることができるだろう。なぜOL御用達ランチコースをおすすめするのかと聞かれても困るが、ではラーメン大好きアラフォー男子はOLランチを食べないだろうか。食べる機会が無いから食べないだけかも知れない。では食べる機会はいつ訪れるのか。

他人の買い物に付き合うのは、時間が適切であればそこそこ楽しい。それは、自分の趣味や生活の範囲外にあるものに触れられる機会だからだ。野村は、街を歩くのが好きだ。いかにもおばあちゃんが着ていそうな洋服を売る店や、チャラいアクセサリーショップは、自分のための商店街を作ったとしたら絶対に誘致しない店だが、見る分には全く問題がない。

目的をもってWebブラウザなどのツールを起動したときは、邪魔な情報は一切欲しくない。ラーメンを検索しているときにツールがOLランチを勧めてきたら物理で殴りたくなるだろう。だが、漠然と「今日のお昼はなんにしようかな」と思ったときに、自分に最適化されているツールだけが本当に便利で素敵なものなのだろうか。

と、例によって答えの出ない悶々としたものを抱えながら、今日のランチを考えている。