7月に観た映画の話

サム・ワーシントン主演「崖っぷちの男」を何故か観てしまった。「フォーン・ブース」のように一つのシチュエーションで起こる様々な出来事を中心に進んでいく話かと思いきや、いやもうタイトル詐欺とは。それ自体がネタバレなので詳細は避けるが、気軽な感じで観られるし痛快=おバカな映画なのであった。

細田守監督「おおかみこどもの雨と雪」。いやー、沖浦監督「ももへの手紙」を観たときにアニメ好きなら観なきゃダメだ的なことを思ったが、こっちもだわ。いや、こっちかもだわ。作画というか、表現のレベルが素晴らしい。CMでも使われている雪原を疾走するシーンなどはため息が出るし、人物の仕草も細かくて魅せてくれる。

ストーリーについては批判的な意見も多く、その主張も理解できないでもない。ただ、これが「子育ての話」と談ずるのは無理筋だと思う。そんな表層部分が「一番描きたかったこと」とは思えない。同様に「半獣半人の物語」というのも表層にすぎない。そういうのが気になる人は、いっそ全部がメタファーだと思いながら観ると良いと思う。そうすると演出のディテールに非常に手間暇かかっている良心的な映画にみえてくるんじゃないかと思う。個人的には「サマーウォーズ」よりも断然こっちのほうが好きな映画。

クリストファー・ノーラン監督「ダークナイト ライジング」。三部作の完結編ということでまさかの「ビギンズ」からアレやらコレやらがつながってくる。もう忘れたよ「ビギンズ」なんて……、先に観返しておけば良かったと激しく後悔。164分の中に非常に圧縮された感のある展開は、正直なところ食傷気味、もしくは消化不良。観ている途中で、あぁもう終わらせたいんだろうなー、とノーラン監督の心情を想像しちゃうくらい。そして「ダークナイト」が傑作であったことを再確認するに至る。

とはいえ、面白かったのは間違いなく、その意味では大満足。個人的には悪人、警官、市民、バットマンのそれぞれの正義について選択を強いられるという三部作を通してのテーマは今回もがっつり盛り込まれていて、ダークナイト論なんぞをかましたことのある青臭い人たち(褒め言葉)は当然観なきゃいかんでしょうし、現在のハリウッド映画の最高品質を観られるという点でももちろんおすすめ。

で、レンタルで観たのがデヴィド・フィンチャー監督「ドラゴン・タトゥーの女」。そういえば「ミレニアム」三部作のほうをどう書いていたっけな、と思って日記を読み返してみたが、「おっさんに華が無いがリスベットがカッコイイからそれで良し」的な感じだった。で、フィンチャー版もやっぱりリスベットがカッコイイ。欲をいえばツンデレのデレの比率が高すぎる。ツンデレは、ツンのほうが多くないとダメなのよ。もしかするとツンデレという設定じゃ無いかも知れないので、そのときは申し訳ありません。

加えておっさんがダニエル・クレイグになってしまって、こちらも多少カッコよくなってしまった(ちょっと残念な口調で)。ただ、ダニエル・クレイグにしてはダサいおっさんを演じてくれている。というか、もしかするとダサいおっさんという設定じゃ無いかも知れないので、そのときは申し訳ありません。

それはともかくフィンチャー版のほうがやっぱりスタイリッシュで観やすい映画に仕上がっているので、このリメイクは成功だったと思う。全体的に静かな進行で、北国の寒い風景と相まって体が固まっちゃう感じ。この空気感が好き。

どうやら三部作を全部作るらしいので、次の二部を観て多くの方がガッカリするのが今から楽しみである。三部作の二部が単独で面白いというのは無理があるからね。