アンコール遺跡はカンボジアにある遺跡です。クメール民族の敬虔な信仰心(仏教とヒンドゥー教)を石に刻み、積み上げ、何十キロ四方に及ぶ広大な土地に築き上げた一大都市が、アンコール遺跡です。
1992年にユネスコによって世界遺産になりました。当然といえば当然です。ところが、その頃のカンボジアは、世界遺産の名誉を手放しで喜べるような時期ではありませんでした。1970年代から続いていた内戦、ポル=ポトによる独裁の時代。20年間で流れた多くの血。アンコール遺跡を守れるだけの技術力も職人も足りないという悲しい現実です。
ですがカンボジアの復興はとてもめざましいものがあります。マーケットに溢れるタイからの輸入雑貨や食料品や、町を縦横無尽に走るバイクを見れば、カンボジアの90年代がどれほどの勢いであったのかが分かるでしょう。地雷はまだ何万個も残っているでしょう、でもカンボジアがそれだけの国だと思っていては足元を見られます。
学生の意識もとても高いようでした。日本や欧米のもつ技術力を国内に採り入れていこうと熱心に研究しています。語学力も非常に高く、英語は無論で日本語が流暢な方にも何人も会いました。で、そういった向学心の強い方が口を揃えて、「この国を良くするんだ」と熱く語るのです。僕達はポル=ポトの時代に親を殺された世代なのだ、と言いながらも自分達の国がどれほど良い国になろうとしているのか、と結ぶのです。
僕の彼女の友人であり、今回の旅行でガイド役を引き受けてくださったカンボジア人のテリーさんは、日本の大学で建築を勉強しています。シェムリアップ(アンコール遺跡に最も近い都市)でカンボジア式鍋を突付きながら、彼女はいつかはここに戻ってきて遺跡の保護に携わりたいのだ、と言いました。いっぱい勉強をして、国に戻ることが目標なのです。
アンコール遺跡は非常に老朽化が進んでおり、すぐにでも崩れ落ちそうな脆い遺跡です。無人となってから生えた大木が建物を飲みこんでしまった個所もあります。一刻も早く直さねばならない遺跡でもあります。
テリーさんのような優秀な学生がアンコール遺跡に戻ったときに、カンボジアはクメール民族の偉大な遺産を自分達の手で守ることができるようになるでしょう。そしてそれは遠い未来ではありません。今はまだ他国の技術力に頼っている遺跡の修復も、それにかかる費用についても、きっとなんとかできるようになるでしょう。