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小谷美紗子 「うた き」の巻(1999/04/13)

 春先にこんな曲を聴いてしまうとブルーになる……。でも、聴きいってしまうんだよなー。小谷美紗子はここ数年の中でもっとも気に入った詩人だ。
この手の音楽には、「音楽を表現する上での詩」なのか、「詩を発表する手段の音楽」なのかという問題がつねに付きまとう。尾崎豊の作曲センスって、音楽の力だったのか歌詞の力だったのか分からない部分があるように。でも、小谷美紗子に限っていえば、音楽(というか音)が凄い。そして詩がすごい。
先行シングルだった「火の川」を聴いて感動し、このアルバムを発売日当日に買った。このアルバムが3枚目になるが、前2作を超える緻密さが感じられた。それまでアレンジが佐藤準一人だったのが、複数の人によるものに変わったからかもしれない。いやいや、だからといって佐藤準のアレンジがへぼかった、というわけではない。デビューシングル「嘆きの雪」などは、今聴いてもビビるくらいかっこいい。ただ、新しい小谷美紗子を引き出す意味でも、日本人にはない空気感を与える意味でも、このアレンジャー陣は成功であっただろう(宇多田ヒカルの場合とは明らかに違う)。
特に「火の川」。勝手な推測だがこのアレンジは日本語の、つまり詩の内容を理解してアレンジしているとは思えない。外人だから。だが、これほどまでに鬼気迫るアレンジがあるだろうか、間違いなく今年一番おっかない悲恋の歌となった。
小谷美紗子の歌のテーマは、悲恋(あるいは「悲しいまでの愛」)か、社会批判である。尾崎豊、橘いずみ、中島みゆき等に近いかも知れない。ただ、小谷美紗子は「自分は女だから」とは絶対に歌わない。性についてはまるっきり触れない。恋愛を歌っていても、デビューアルバムの「Care Me, More Care Me」がちょこっと「女の子っぽい」くらいだ。だからこそ、男性である僕が聴いても感動できる。共感できる。
実はあんまり、歌詞について触れたくはない。歌詞の持つ二重、三重の「意味」を理解できるのは作者のみだからだ。だからさっさと楽曲についての話に戻ろう。
小谷美紗子は弾き語りのスタンスにこだわっているようだ。キーボディストというのはレコーディング・マニアになる傾向があるが(自分もそうだった)、小谷美紗子にその危険はまだなさそうだ。全曲、軽いひねりは効いているが、小難しい楽曲は一つもない。ただ、簡単だからといってカラオケで歌えるような代物ではない。小谷美紗子が気持ちよさそうにとうとうと歌い上げているので、そのイメージが強烈に耳に残るのだ。僕の目前でカラオケで小谷美紗子は御法度だ。
小谷美紗子はもうちょっと有名になってもいいと思う。レンタルでもいいから、ぜひ一度、全曲聴いてほしい。

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