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上野耕路 「Reservoir」の巻(1999/07/01)

 上記のタイトルだが、正確な表記ではないことを予めお断りしたい。フランス語の「貯水池」という意味の単語らしいのだが、「R」の次の「e」は上に点が付く。BeOS、TRON、Windows2000などのOSでないとフランス語と日本語を同時に記述できないのだ。閑話休題。

 上野耕路は現代音楽家である。今回紹介する「Reservoir(レゼルヴォアール)」は、ジャンルで言えば現代音楽に位置される筈であるが、日本音楽界の現状では、彼はイージーリスニング、或いはインスト・ポップスに分類され兼ねない。実際、CDショップで彼個人の作品を見つけるには、Jポップ、イージーリスニング、フュージョンといった複数の棚を探す必要がある。
 実は1991年にALFAから発売されたこのアルバム、既に廃盤であり入手は困難を極める。僕は1993年に入手したのだが、当時はまだ廃盤であることを知らなかった。「Music for Silent Movies」等もいずれ入手するつもりでいたが、今となっては再販を待つのみの悲しき身である。
 ALFA時代を経て、つい最近まで彼個人の作品はシナジー幾何学という会社からCD化されていたが、この会社は今年の初めに和議を申請してしまった。ひょっとしてまたも入手が困難になるのだろうか、心配である。

 上野耕路を知る人は少ないだろう。彼の経歴については恐らく調べればすぐに分かるだろうから、あまり詳しくは書かない。僕が彼を知ったのはALFAが健在だった頃に、「Music for Silent Movies」のビデオクリップを観たときだった。このビデオももう廃盤。欲しかったな、でも当時の僕は高校生で、そんなに金持ちではなかった。
 当時の僕は細野晴臣、戸川純の作品を集めていた。戸川純と上野耕路による幻のユニット「ゲルニカ」を知り、上野耕路の名は僕に強烈に焼きついた。
 そんな折に、僕はアニメ映画「王立宇宙軍」のLD BOXを買う快挙を成し遂げた。こんなもの買う金があったのに、CD買ってないなんて……、まあそれは置いておいて。「王立宇宙軍」は坂本龍一が音楽監督をしたことで有名だが、クレジットによると音楽は全部で四人、すなわち坂本龍一、野見祐二(後にジブリ作品「耳をすませば」の音楽を担当)、窪田晴男、そして上野耕路である。映画は後のアニメ作品に多大な影響を及ぼすのだが、僕はその音楽でも衝撃を受けた。
 また、1993年のマルチメディアグランプリに輝いた「GADGET」というマルチメディア作品(ゲームといえなくもない、CD-ROM映画といえなくもない)でも上野耕路の音楽に出会った。後にプレイステーションでも発売されたのだが、非常に難解なストーリーだったし、はっきりいってプレイステーション版は売れていない。発売元が前述のシナジー幾何学なのでレアアイテムかも。おっと、閑話休題。

 さて、「Reservoir」である。これは上野耕路が自宅で録音した、彼の作品集である。非常に緻密で独特な音楽世界を持っている一枚だ。上野耕路のエッセンスが詰まっているといってもよい。
 冒頭で述べた通り、現代音楽の作品であるから人によっては嫌悪感を覚えるかもしれない。また、彼は現代音楽家としてみた場合、作風が古い。また、少々毛色の変わった仕事をしているからそれなりに有名なのだが、現代音楽家としての彼は無名で、彼の作品をかける楽団は皆無だ(あるいは、これは単純に、日本国内に現代音楽をかける楽団が少ないことに起因するのかも知れないが)。
 だが、彼の作品には独特の世界があり、僕はそれが気に入っている。リズムの取り方などが特に心地よくて好きだ。壮大な感じではなく、チープな感じ。短く、小さく、大胆にまとめられた音が、弾むように流れるのがよい。妙におどろおどろした現代音楽とは違う路線を行っている。イージーリスニングに分類されるのはそのためかも知れないが。
 上野耕路の作品は、これからはどのレコード会社から発表されるのだろう。それだけが気がかりである。

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