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第18回「或るマシンの半生」(1999/09/19)

 あれだけ反省したのに、またこんなに更新が遅れた。それは何故か。
 言い訳する気もないが、実は更新したくて仕方なかったのだ。テストや旅行やバイトが重なったので、出先でノートパソコンでも持ち出して書こうと思ったのだ。Windows2000の試用レポートとかも書きたかったのだ。だが、肝心のマシンが死んでいたのだからしょうがない。
 今日はそのマシンのお話をば。

 確かこの日記にもう書いたよな、と紐解いてみたらば一言も記述がないではないか。更新ネタだったのに!だったのに!なんてこったい。反省。

 今年の1月末、彼はやってきた。その名をFMV NC313D。A5サイズ、1.3kgのWindows機である。大学入学の一年ほど前に購入したFMV 475NL/S は486DX4という時代遅れなCPUを持つ貧弱なマシンなので、いっちょ買いなおそうか!と一念発起、博多にあるアプライドというショップの中古コーナーを物色していたところ発見した。重量1.3kg程度という携帯性に惹かれて、即購入を決意。ディスプレイドライバの不備を指摘して2万円ほど値引かせて、最終的には10万円で購入した。
 最初は手の掛かったマシンであった。ドライバ類が一切欠品した状態なので、あらゆるデバイスのドライバをネット上から見つけてこなくてはならない。サウンドドライバ(ES1688)はメジャーかつ安定したチップで助かったのだが、ビデオは苦労した。チップはNeo Magic 128ZVなんだが、富士通のサイトにはドライバがなかったのだ。Neo Magic社ではドライバ供給はなされていない。やっとの思いで日本では見たことのない名前のノートパソコンを発売している会社のサイトを発見、ダウンロードに成功したのだった。
(ちなみに、デバイスドライバもソフトウェアと考えられるので、この行為は広義において違法。チップの製造元が発行しているドライバだったらまったく問題ない)
 それでも、一度動き始めたら安定したマシンだった。CPUはMMX133MHz。今となってはしょぼいもんだが、それでもDX4と比べたらもう。しかも純正MMXなので、メインに使っているK6のニセMMXより早い場合がある。メモリは標準32MBの、このマシンは更に32MB増設されて64MBだった。アプライドの店員は気付いていたのかな?僕は店頭で確認していたよ、ふふふ。しかも増設バッテリまで付いていたんだから、なんてナイスな買い物だったんだろう。
 最近のノートパソコンには、なんと標準でモデムまでついている。これもそうだった。33.6kモデムとはいえ、PCカード+PHSのみだった僕にとってはこれも有難い機能だ。熊本の祖父母の家からネットができるんだから。もう。あそこはPHSが入らんのよね。
 前回のこのページの更新もこのノートパソコンで行った。キータッチが、475NL/Sと比べると軽く、キーピッチが小さくて押しづらいが、まあ大きさが小さいのでしょうがない。携帯性が良いことで余りある機動性を実現していた。
 7月末、みんなが期末テストで必死になっている図書館にだって、コイツを連れて行くことは容易だった。おもむろに机の上に出し、いざ。
 「ガツン!」
 はて。
 今の非常に危険な音は何の音だったのか。
 なんと、ハードディスクのクラッシュ音であった。

 まあショウガナイ。クラッシュは交通事故のようなもの。こんなときのためにバックアップ。すぐにハードディスクの買い直しを決意した僕は、3日後には壊れた1.6GBのハードディスクを取り出して、3.2GBのものに乗せ換えたのだった。
 さて、ノートパソコンはその性質上、絶対に蓋を開けたり、ハードディスクを取り替えてはならない、と説明書に明記されている。Own Your Risk(あんたの責任で)ってやつだ。メーカー製のデスクトップマシンにも似たようなことは書いてあるが、それとこれとは訳が違う。ノートパソコンは小さくするために無茶をしているからだ。だから僕も慎重に交換を行った。
 初めてのことではない。前の475NL/Sも、もう何度も分解している。確かにNC313Dの方が部品の密度が高く、危険な作業ではあったが、問題はなかったと今でも思っている。
 事実、ハードディスクの乗せ換えは成功したのだから。
 ただ一点、ACアダプタを認識しないことを除けば。

 さて困った。全く動かないのなら良かったのだが、OSのインストールもできそうな様子だ。もはや充電する手段のないバッテリを、砂漠で飲む水のように慎重に扱いながら何度も内部を確認したが、原因が分からない。これはきっと過電圧か何かで、回路の一部が死んだに相違ない、と確信した僕は、メーカー修理を決意するに至る。
 これは賭けである。何故なら、先ほど説明したとおり、タブーを犯したのが僕の方だ。メーカーは直してくれるのだろうか。直して欲しい。できれば、「ええっ、そんな親切は初めてだ」っていうような値段で直して欲しい。そう祈りながら、アプライドへ向かい、店員にNC313Dを手渡したのは、次の日の出来事だった。この時点で、8月の旅行には、この相棒を連れて行くことはできないことは確実だった。
 メーカーは、予想以上に薄情だった。お盆休みを十分に取った彼らが連絡を寄越してくれたのが8月中旬。待たされて聞かされた台詞は74000円だったので、僕は放心した。仲介に立っているアプライドの店員が「どうしますか」と聞くので、僕は笑った。本当に笑った。「あははははははは、キャンセルです……」電話をそっと切る。
 僕が甘かったのだ。メインボードのどこかの回路が飛んだのだろうと予測しているが、もしもそうならばメインボードごと交換するに決まっているのだ。事実、メインボード交換代が5万円だったのだから。NC313Dの場合(そして多くのノートパソコンでは)、CPUもビデオチップもサウンドチップも電源も全部がメインボード一枚乗っているのだ。法外な値段ではない、メインボードを交換するということは、買い換えるに等しいのだ。
 その上、非純正なハードディスクを「純正品」に戻すのに2万円と言ってきている。買い換えたハードディスクがピンピンしているならば、これはスペックダウンである。前述の電話の際にこの点についても聞いた。「メーカーは、ハードディスクもおかしくなっている、と言っています」の弁。僕にはこれはにわかに信じがたかった。帰ってきたならば、確かめてみることにしよう。
 さて、のんびり屋さんの富士通から、NC313Dが帰ってきたのは9月16日。もう、何も言うまい。メーカー修理とはそんなもんさ。
 早々に分解し直し、僕はハードディスクの安否を確認した。動く。ためしにOSを入れる準備をした。
 帰ってきたNC313Dの、標準バッテリはすでにからっぽだった。恐らく輸送中、もしくは幾度かのテストで切れてしまったのだろう。だが、手元にはまだ満タン充電の増設バッテリがある。僕は、Windows95をセットアップすることにした。
 成功である。
 本当に電源だけなのだ。おかしくなったのは。こんな都合のよい壊れ方があってたまるか。運が良いのか悪いのか。

 このNC313Dを昨日、実家に宛てて送った。電気工事士の免許を持つ兄に全ての事情を話してある。彼はやる気だ。電話口からもひしひしとそれが伝わってくる。「なーに、いざとなったら何とかして充電して使えばいいってことだな」という頼もしい返事に、僕は救われる思いになった。そんな彼には、OSのインストールまで済んでしまっているという異常事態に付いては語らなかった。きっと、電源を入れてみてびっくりすることだろう。それにしても、一体どうやって充電するつもりなのだろうか。
 気になるのは、電話口の彼のはしゃぎようを冷静に分析すると、あたかも自分の物になった喜びの表現に感じ取れる点だ。年収のある身で、僕の10万円をどうするつもりなのか。まあ、肉親のやることだ、大目にみるか。

 ところで、じゃあ今の野村は、再び475NL/Sを持ち歩いているのか、というとちょっと事情が変わった。現在475NL/Sは彼女に持って行かれている。代わりに僕は……。

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