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第23回「アンチ・ネットの人」(1999/11/16)

 僕には兄がいる。これが非常に個性的な人物である。ここでは彼の持つ、ある特徴について触れようと思う。予め断っておくが、僕の実家は札幌である。彼と最後に会話をしたのは9月の下旬で、それも電話。顔を見たのは8月だった。よってここに書かれてあることは、すでに事実とは違う可能性もあるが、まあいいでしょう、この日記はウソもホントも含めて、訂正なしが原則なので。
 僕は大学の学科内でも、学生寮でも堅物、偏屈者としてキャラが定着している。が、ウチの兄はその上を行く。彼には彼独特の人生観があり、そのこだわり度は人間国宝の職人さん級といってもよい。
 彼は、ネットに繋がないコンピュータ使いであることを、半ば誇りにすらしている。僕が大学に入ってインターネットに身を投じた時も、世間が猫も杓子もインターネットと騒ぎ立てた頃も、彼は決してネットに繋がなかった。パソコン雑誌の紙面にインターネットの文字が躍るのを冷ややかな目でみつめ、ネットの話題を楽しげに語る僕や友人達を静かにみつめる。彼は動かなかった。
 彼はフリーソフト好きだ。ただし、ネットには繋がないのでもっぱら雑誌の付録でソフトを入手する。ネットには最新版があるのだが、彼は最新版には興味がない。CD−ROMのように形となって提供されるものが重要なのだ、と彼は語る。保存の観点から考えて、それはとても重要なことだった。
 彼はWindows再インストールマニアでもある。自分のシステムに少しでも不具合、不安定な要素を発見し、それが「ノートンさん」でも治せないと分かるや再インストールを強行する。フォーマットも辞さない。そんな再インストールマニアの彼は、必要最小限のバックアップが上手だ。すなわち、CD−ROMに収録されているフリーソフトを使っていれば、その分のアーカイブはバックアップする必要がない。彼は再インストールの後に、おもむろに雑誌の最新号に付属していたCD−ROMを取りだし、フリーソフトをいれていく。……そういや、最近はその作業が煩雑になってきたから、MO1枚にまとめていたっけか。まあ、とにかく、彼はフリーソフトはフリーソフトでまとめてバックアップしている。
 そんな彼が、最近非常に苛立っていることがある。昔、インターネットがそれほど普及していなかった1997年頃くらいまでは、雑誌のCD−ROMには最新ドライバ、修正パッチ、フリーソフトの類などが、宝の山のように入っていた。ところが最近は、その魅力がすっかり減ってしまい、代わりに紙面には「インターネットで入手可能」とか「インターネット用○○」といった風に、インターネットに接続できる環境を前提とした記述が増したのだ。
 確かに、インターネット上の情報の刷新速度はものすごく、雑誌のように一月置きの媒体ではとても追い切れないくらいだ。だが、だからといって、コンピュータのマニアは全員インターネットに接続していて当然だろう、と言わんばかりの世間の風潮は、彼にとって苛立たしい限りなのだ。
 僕も、コンピュータを持っている全員がインターネットに接続されてしかるべきだ、と言わんかのような現在の風潮はおかしいと思う。例えば、Quick Time 4のようにネットに接続する以外にインストール手段がないソフトウェアが出てくるというのは納得がいかない。確かに、Quick Time 4はインターネット上のストリーミング配信などを念頭に置いたソフトではあるが、それ以上にQuick Timeの最新版であるのだから、雑誌のCD−ROMなどに収録されてよいのではないか。最新技術の全てがインターネットを要求する、というのは間違っている。
 Windows98がInternet Explorerを標準のインターフェイスにしてしまったが、いくらなんでも無茶が過ぎる。どんなに時代が経っても、スタンドアロンなコンピュータは存在し続けるだろう。只の足枷でしかない。
 「コンピュータ=インターネット」という図式は間違っている。みんな、騙されるな!僕がメインで使っているマシンは、インターネットに繋いでいないが、ネスケが3つ、IEが2.5個入っているぞ!
 ここまで書いて気づいたんだが、インターネット上でこの話題を書いている辺り、矛盾している自分がちょっと面白い。

 さて、アンチ・インターネットを唱えた彼、ウチの兄は僕の2台目のノートパソコン、故障したFMV-BIBLO NC313Dを見事半日で直した男だ。彼は、NC313Dに内蔵されたFAXモデムを用いたFAX送受信実験に成功すると、電話口で非常に楽しそうに言った。「これでネットにも繋げられる」と。

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