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 幾度と無く、文明は栄え、衰える。

 或る人は言った。生態系が需要と供給を輪廻するように、古い細胞が垢となって剥がれ落ちて、その下から新しい肌が姿を見せるように、文明もまた、自然の生業の中で生まれ、消え逝くのだ、と。
 この「世界」は、やはりそういった定義めいたものをあてはめることのできる世界だ。一年二十四ヶ月、規則正しく八つの季節を繰り返してここまで来た、普通の「世界」の話だ。
 そして、文明は生まれ、消える。どれ程の価値が、大いなる神の前で、人間に与えられているのだろう。文明の、社会の中の「大衆」なるものの多くは、疑うこと無く、生きるために生きていこうとする。
 疑うことなど、無意味だ。滝壷の目前で、蝿の羽音が聞こえるものか。
 文明は、留まることを知らなかった。或る意味で、虫を追って山道を走る子供だった。無我夢中で走って、走って、その先に何があるのだろう、そんなことを知り得る筈も無かった。得てして大人達は、そんな子供を遠くから眺めては、無邪気だ、と笑うものだ。
 クイズを出そう。
 子供の目に届く所に、危険なものを置く、とても危険なものを。そして、こう言う。危険だから、絶対に触ってはいけませんよ。
 少し知恵の付いた子供は、真っすぐ手を伸ばすことは少ない。鞭の前には、飴を与えなければ。これは、とても強い力を手にすることのできるもの(こと)だよ、と。どれ程の?風よりも、雲よりも、火山よりも、大海よりも、季節よりも、時間よりも、何よりも強い力だよ。
 そして、文明は生まれ、消える。どれ程の価値が、大いなる神の前で、人間に与えられているのだろう。文明の、社会の中の「大衆」の多くは、疑うこと無く、生きるために生きていこうとする。

 教えてあげるよ。貴方達には、何の罪も無いのだから。あるとすれば、一つ。知らないことなのだから。
 そして、知る者よ。お前らは罪人だ。

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